ニコ動で悪ノP様が作成されました【悪ノ娘・悪ノ召使】を元に書いてみました。
本当はボーマス4で出す本だったのですが、間に合わなかったのでort
短く区切って、ちょこちょこ載せていきたいと思います。
ご興味をもたれましたら、つづきはこちらからご覧下さい。
双子は凶兆
王家に生れし子が、双子ならば間引くべし
双子は凶兆
王家に生れし双子は、民を苦しめ国を滅ぼす
双子は凶兆
ゆめゆめ忘れる事無かれ
【 1 】
森の片隅にその家は建っていた。
家の側には小さな菜園があり、数々の実りが午後の優しいの光を受け、キラキラと輝いている。
庭には簡素なテーブルセットが置かれていて、お茶の時間になればゆっくりと
寛いで過ごす事が出来そうだった。
煙突から緩やかに煙が立ち昇り、暖かな暮らしがそこにあることを伝えている。
まるで童話の世界から飛び出してきた様な家の中では、パチパチと小さな音を立て暖炉に
暖かな火が灯り、やさしく辺りを照らしだしている。
暖炉のすぐ側には、使い古されてきた長椅子に一人の老婆が静かに目を閉じ、ゆっくりと揺られていた。
口元からは微かに歌声が零れている。
それは長い間忘れ去られている、ある国の子守唄。
彼女が幼い頃に聞いた、穏やかで幸せな唄。
ゆらゆらと椅子に揺られながら彼女は歌う。
足元には老犬がゆったりと寛いだ様子で、時折甘えるかの様に老婆の足にじゃれている。
「今度は、お前と一緒に写真をとってもらいましょうね」
じゃれる老犬をそっと撫で、彼女は部屋を見渡した。
壁や棚にはたくさんの写真が飾られていて、彼女の生きてきた証を写し出していた。
彼女の若い頃の姿、可愛らしい赤ん坊を抱く姿。年を取り、たくさんの家族に囲まれて微笑む姿。
どの写真の彼女も楽しそうに、笑顔を浮かべいきいきとしている。
その中に、ひっそりと隠れるように一枚の写真が飾られていた。
相当古い写真なのか色褪せていて所々、焼け焦げている。
それは、容姿の似通った少女と、少年が幸せそうに笑っている写真だった。
ボーンと、時計が鳴り老婆がゆっくりと立ち上がる。あと一時間ほどで三時になる。
彼女の可愛い孫たちが帰ってくるのだ。
そう、おやつの時間に。
「さぁ、お茶の用意をしなくちゃね」
老犬に優しく語りかけ、ゆっくりと立ち上がり台所へと向かう。最近は足腰に痛みが出て嫌ね、と苦笑しながら歩みを進める途中、小さな古ぼけたその写真に彼女は目を留める。
そっと閉じた瞼の裏に浮かんでくる懐かしい情景。
バラの香り溢れる庭園。お気に入りのテーブルセット。そして、彼の笑顔。
何もかもが懐かしく、今は遠い思い出。
「今日のおやつは、ブリオッシュだよ」
ふと、声が聞こえた気がした。
はっとして、目を開き辺りを見回す。聞こえるはずはないその声に耳を澄ます。
チクタクという時計の音、小鳥のさえずり、それ以外は聞こえない。
苦笑して一歩踏み出したその時、窓から差し込む光の中に彼が見えた。
あの時と同じ様に、優しく微笑む彼が……。
震える声で名を呟き、手をのばして近寄ろうとした時、差し込んでいた光を遮る様に雲が流れ、あっという間に彼を消し去ってしまう。
あの時と同じ様に届きそうで、届かない。
もう一度、写真を見つめる。
手を伸ばし、しわがれた指先でそっとなぞる。写真の中の少女と少年は幸せそうだ。
「……私、お婆ちゃんになったでしょ?」
返事はない。
もう、聞こえない。
写真をもとの位置に戻し、彼女は小さくそっと呟く。
「今日は、ブリオッシュにしましょうか……」