お待たせいたしました~!
【悪ノシリーズ6】です。
なんか、パソコンの様子が微妙なのでちょっと心配。
無事にうp出来ればいいんだけど……。
では、『つづきはこちら』からど~ぞ♪
【 6 】
「王子!王子は居られるか!」
「いえ、本日はまだ……」
「まったく……何処に行ってしまわれたのか」
「……」
「えぇい!王子を見掛けたら直に報告するのだぞ!」
「畏まりました」
ブツブツと小言を呟きながら大臣が歩き去った。
角を曲がって完全にその姿が見えなくなると、兵士は軽く溜息をつきながら中庭に向かって声をかけた。
「王子、大臣行っちゃいましたよ」
「……」
普段通りであれば声をかければすぐに、ごめんと笑いながら王子が姿を現すのに今日に限って現われない。
兵士は不審に思いながらも、もう一度声をかけた。
「王子?カイト王子!」
「……」
やはり返答はなく、中庭は静まり返っていた。
持ち場を離れるのは若干気が引けたが、王子の姿が見えない事も心配だったのでそっと兵士は中庭に立ち入った。
中庭には人影はなく柔らかな日差しが射し込み、噴水をキラキラと輝かせていた。
お茶の時間になれば、王や王妃が執務の息抜きを楽しんだりと普段は憩いの場として使われている。
しかし、今は執務の時間帯なので本来ならば誰も居ないはずなのだ。
「王子~?」
兵士は小声で呼びかけながら中庭を進み、王子を探す。
ガサッと小さな音がして振り向けば、可愛らしい子兎が小首を傾げこちらを見詰めていた。
一瞬剣に伸ばしかけた手を緩め、子兎に向かって手を伸ばした。
人に馴れているので逃げることもせず、頭を撫でる兵士に気持ち良さそうに目を細めて見せる。
「よしよし、王子はどこに居るか知ってるか?」
ぐりぐりと頭を撫でながら、思わず独り言が漏れたのに兵士は小さく笑った。
その声に驚いたのか、子兎はぴょんと飛び跳ね草むらに紛れ込んでしまった。
「やれやれ、王子は……」
そこまで口にして立ち上がった時、子兎の消えた草むらがガサガサと揺れた。
そっと、草を掻き分けてみればそこに探し人の姿が見えた。
「……王子」
「……むにゃ」
いつもの様に大臣から逃げ回って、この場所に隠れたまま眠ってしまったのだろう。
笑顔を浮かべ、むにゃむにゃと寝言を呟く姿はとても愛らしいがこのままでは風邪を引いてしまう。
「王子、起きてください。王子!」
「……も、食べ……にゃ」
「カイト王子ッ!!」
「うわッ!!!」
大きな声で名を呼べば、王子はガバッと起き上がり辺りをキョロキョロと見回した。
寝ぼけているのか、ふにゃっと笑顔を浮かべるともう一度寝なおそうと横になりかける。
すかさず兵士は手を伸ばし、横になりかけた身体を支えた。
「王子、早く起きないとオヤツ抜きですよ」
「それはいや!!」
カッと目を見開き、王子が立ち上がった。
あまりの素早い動きに唖然としながらも、何だか可笑しくて兵士は笑い出した。
「何で笑うんだよ!今日は、氷菓子の日だろ!!」
「くくくッ、そ、そうですね。確かに、氷菓子の日です」
「あ~早く、食べたい」
ウットリとした表情で、涎をこぼす姿にまたも笑がこみ上げてくる。
肩を震わせながら、己の口元を指差し涎が溢れている事を伝えると、暫く気付かぬままウットリとしていた王子だったが顔をさっと赤くし慌てて口元を拭った。
「……今、何時?」
「あと一時間ほどで、お茶の時間になりますよ」
その言葉を聴くと一瞬だけ嬉しそうな顔になった王子の表情が、みるみる青くなっていく。
パクパクと口を動かしながらこちらを見上げてくるので、努めて冷静な声で伝えた。
「そうですね、国王様との謁見時間を二時間ほど過ぎてますね」
「……ッ」
「先程から大臣が、ものすごく顔を真っ赤にされて頭から湯気が出るほど怒って……」
「ま、まずい。それはかなり、まずい」
「まぁ、本日の氷菓子がお召し上がりになれないかも、知れませんね」
「な、七日に一度の楽しみが!!!」
「わ、私に泣きつかれても。一刻も早く向かわれた方が良いかと思われますが……?」
その言葉にハッと我に返ったのか、慌てて立ち上がり身体についた土や葉を振り払う。
兵士が背中の葉を取り除いてやると、笑顔でありがとうと言い走り出した。
「ありがとう、か……」
己の持ち場に戻る為に立ち上がり兵士は歩き出した。
多くの貴族達が忘れてしまったその言葉に、知らず知らずの内に笑顔が零れる。
その時、パタパタと足音がして走り去ったはずの王子が戻ってきた。
「どうされました?」
「ん、起こしてくれてありがとう」
「……はい」
「それから、普段は王子扱いしない約束!」
「……あぁ、ゴメン。カイト」
「うん!それじゃ、また後で!!」
「頑張っておいで」
満面の笑顔で大きく頷き、走り出す。
その後姿を見詰めていると、こちらを振り返り手を振る。
それに答えて軽く手をあげると、ブンブンと手を振り替えしながら王子は叫んだ。
「兄さん!!ララ兄さんも一緒に氷菓子食べようね!!」
笑って頷くと今度こそ振り返らずに王子は走り去った。
「兄さん、か……」
額に手を当てて兵士、ララは呟く。
陽射しが遮られたからなのか、その瞳には暗く影が落ちていた。