【 7 】
「父上、怒ってる……だろうな。はぁ、行きたくない」
溜息をつきながら目の前の大きな扉を見詰め、何度目か解らない溜息をついた。
謁見の間へと続くこの厳しい扉を開けば、更に厳しい顔をした父親が待っているのかと思うと、
扉に手をかける決心が中々つかないのだった。
中庭でララに起こされた後、慌てて走り出したものの向かう先々で、公爵婦人やそのご令嬢に捕まり元々遅れていた時間を更に遅らせてしまっていた。
「はぁ……。溜息ついてても仕方ない」
身なりを軽く整え、謁見の間に入る為の口上を述べる。あまり好きな言葉では無いが、決まりなのだから仕方が無い。
「第一王子、カイト。参上致しました、開門ねが」
「このバカ王子!!!!」
本来ならば長々と続く口上文句を最短に省略して、開門させようとした言葉を遮り、これまた長々と続いた口上の後に衛兵が恭しく開く筈だった扉を、吹き飛ばさんばかりの勢いで大臣が出てきた。
「や、やぁ、大臣。お待たせ」
「えー、えー、えー!!待ちましたとも!!お約束のお時間を覚えていらっしゃいますか?!」
「えっと、その、……あはは」
「あはは、ってなんですか!あははって!!」
「いや、だから……ごめんなさい」
「謝れば許されると思ってるんですか!!」
何を言っても説教へと繋げようとする大臣に困り果てていると奥の王座からゴホンと咳払いが聞こえた。
大臣と2人で目を向ければ、父王が呆れたような眼差しでこちらを見ていた。
「大臣、それぐらいで勘弁してやってくれ」
「国王様!しかしですね!」
「カイト、お前も王位継承者として、もっと自覚を持つように」
「は、はい」
その国王の言葉に、渋々といった感じで大臣が引き下がりそのままカイトに道を譲る。
もう一度小声でごめんねと、大臣に囁き足早に王座へと向かった。
片膝をつき礼を執ろうとしたがそのままでよいと止められた。
「あまり大臣を困らせるなよ」
「はい」
「まぁ!あなたもお若い頃は、今のカイトと変わりませんでしたよ?」
細かな細工が施された扇で口元を隠しながら、クスクスと微笑み母親でもある王妃が助け舟を出してくれた。
大臣を止めはしたが父王も説教を始めれば長く、大臣といい勝負だ。
「だがな、妃よ。自覚を持つ事は、」
「あなた、今日は大事な話があるのでしょう?」
「う、うむ。そうだな」
誰もが魅了されるその笑顔に国王は頷いた。
出会った頃から変わらない、いや歳を経て更に美しくなっていく王妃に国王はとても弱いのだった。
王と王妃はじっと見つめ合い、そっと手を取り合う。
「妃……」
「あなた……」
そのまま二人の世界に旅立ちそうになったのでカイトは慌てて国王に声をかけた。
家臣や息子の前で甘い雰囲気を振りまくのは少し自重してもらいたい。
「父上、母上……お話とはなんでしょうか?」
その言葉に我に返ったのか、パッと手を離し国王は厳しい顔付きに戻る。王妃は相変わらずにこにこと柔らかな微笑を浮かべたまま扇をひらひらとさせていた。
「んんッ。その、カイトよ」
「はい」
「お前は黄の国の王妃を覚えておるか?」
「はい。青の国にご来訪下さった時などに可愛がって下さいました」
「そうだな。黄の国に出向いた時も、なにくれとお前の面倒を看てくれたな」
「王妃様がどうかされたのですか?ご病気にでも」
「ん?あぁ、そうではない」
厳しい顔をしていた父王の表情がにこりと崩れた。
「忘れているのか?いよいよ赤子が生まれるそうだ」
父王のその言葉が、不安になりかけた気持ちを一瞬で振り払った。
見れば大臣も衛兵達も皆、笑顔でこちらを見ている。
「本当ですか!」
「先程、黄の国から書簡が届いてな。明日にも生まれそうだと書かれてあった」
「男の子かな?女の子かな?」
自分より下の兄弟がいない為にまるで、自分に妹か弟が出来るようでとても嬉しかった。
そう思えるほどに、黄の国の国王夫婦は自分を可愛がってくれていたのだ。
「そうだな、王子ならば同じく王位を継ぐ者として、お前が導いてやらねばな」
「はい!それにたくさん遊んであげます。氷菓子もちゃんと分けてあげます」
「……氷菓子はまだ無理だぞ」
「え!そうなんですか……」
一瞬、父王が呆れたような気がしたけれど、それよりも何よりも赤子が氷菓子を食べられない事の方が
気になった。
確かに自分も食べ過ぎれば、お腹が痛くなる。赤子にはまだ早いのかもしれない。
残念だけど、もう少し大きくなったら分けてあげようなどと考えていた。
「まぁ、よい。それよりも、もし王女が生まれたならば……」
そこで一度話すのを止めると、父王はじっとカイトを見詰めた。
不思議に思って、見詰め返すとその瞳を逸らす事も無く、見つめ続けたままこう続けた。
「もし、王女ならば、お前の婚約者とする」
「父上、怒ってる……だろうな。はぁ、行きたくない」
溜息をつきながら目の前の大きな扉を見詰め、何度目か解らない溜息をついた。
謁見の間へと続くこの厳しい扉を開けば、更に厳しい顔をした父親が待っているのかと思うと、
扉に手をかける決心が中々つかないのだった。
中庭でララに起こされた後、慌てて走り出したものの向かう先々で、公爵婦人やそのご令嬢に捕まり元々遅れていた時間を更に遅らせてしまっていた。
「はぁ……。溜息ついてても仕方ない」
身なりを軽く整え、謁見の間に入る為の口上を述べる。あまり好きな言葉では無いが、決まりなのだから仕方が無い。
「第一王子、カイト。参上致しました、開門ねが」
「このバカ王子!!!!」
本来ならば長々と続く口上文句を最短に省略して、開門させようとした言葉を遮り、これまた長々と続いた口上の後に衛兵が恭しく開く筈だった扉を、吹き飛ばさんばかりの勢いで大臣が出てきた。
「や、やぁ、大臣。お待たせ」
「えー、えー、えー!!待ちましたとも!!お約束のお時間を覚えていらっしゃいますか?!」
「えっと、その、……あはは」
「あはは、ってなんですか!あははって!!」
「いや、だから……ごめんなさい」
「謝れば許されると思ってるんですか!!」
何を言っても説教へと繋げようとする大臣に困り果てていると奥の王座からゴホンと咳払いが聞こえた。
大臣と2人で目を向ければ、父王が呆れたような眼差しでこちらを見ていた。
「大臣、それぐらいで勘弁してやってくれ」
「国王様!しかしですね!」
「カイト、お前も王位継承者として、もっと自覚を持つように」
「は、はい」
その国王の言葉に、渋々といった感じで大臣が引き下がりそのままカイトに道を譲る。
もう一度小声でごめんねと、大臣に囁き足早に王座へと向かった。
片膝をつき礼を執ろうとしたがそのままでよいと止められた。
「あまり大臣を困らせるなよ」
「はい」
「まぁ!あなたもお若い頃は、今のカイトと変わりませんでしたよ?」
細かな細工が施された扇で口元を隠しながら、クスクスと微笑み母親でもある王妃が助け舟を出してくれた。
大臣を止めはしたが父王も説教を始めれば長く、大臣といい勝負だ。
「だがな、妃よ。自覚を持つ事は、」
「あなた、今日は大事な話があるのでしょう?」
「う、うむ。そうだな」
誰もが魅了されるその笑顔に国王は頷いた。
出会った頃から変わらない、いや歳を経て更に美しくなっていく王妃に国王はとても弱いのだった。
王と王妃はじっと見つめ合い、そっと手を取り合う。
「妃……」
「あなた……」
そのまま二人の世界に旅立ちそうになったのでカイトは慌てて国王に声をかけた。
家臣や息子の前で甘い雰囲気を振りまくのは少し自重してもらいたい。
「父上、母上……お話とはなんでしょうか?」
その言葉に我に返ったのか、パッと手を離し国王は厳しい顔付きに戻る。王妃は相変わらずにこにこと柔らかな微笑を浮かべたまま扇をひらひらとさせていた。
「んんッ。その、カイトよ」
「はい」
「お前は黄の国の王妃を覚えておるか?」
「はい。青の国にご来訪下さった時などに可愛がって下さいました」
「そうだな。黄の国に出向いた時も、なにくれとお前の面倒を看てくれたな」
「王妃様がどうかされたのですか?ご病気にでも」
「ん?あぁ、そうではない」
厳しい顔をしていた父王の表情がにこりと崩れた。
「忘れているのか?いよいよ赤子が生まれるそうだ」
父王のその言葉が、不安になりかけた気持ちを一瞬で振り払った。
見れば大臣も衛兵達も皆、笑顔でこちらを見ている。
「本当ですか!」
「先程、黄の国から書簡が届いてな。明日にも生まれそうだと書かれてあった」
「男の子かな?女の子かな?」
自分より下の兄弟がいない為にまるで、自分に妹か弟が出来るようでとても嬉しかった。
そう思えるほどに、黄の国の国王夫婦は自分を可愛がってくれていたのだ。
「そうだな、王子ならば同じく王位を継ぐ者として、お前が導いてやらねばな」
「はい!それにたくさん遊んであげます。氷菓子もちゃんと分けてあげます」
「……氷菓子はまだ無理だぞ」
「え!そうなんですか……」
一瞬、父王が呆れたような気がしたけれど、それよりも何よりも赤子が氷菓子を食べられない事の方が
気になった。
確かに自分も食べ過ぎれば、お腹が痛くなる。赤子にはまだ早いのかもしれない。
残念だけど、もう少し大きくなったら分けてあげようなどと考えていた。
「まぁ、よい。それよりも、もし王女が生まれたならば……」
そこで一度話すのを止めると、父王はじっとカイトを見詰めた。
不思議に思って、見詰め返すとその瞳を逸らす事も無く、見つめ続けたままこう続けた。
「もし、王女ならば、お前の婚約者とする」
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